柴谷宗叔・「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」を支援する会役員(四国八十八ヶ所霊場会公認先達・高野山大学大学院博士後期課程)「現代巡礼者の実態と分析――四国、西国アンケート調査から」

 《2008年4月19日、大阪市立難波市民学習センターで開かれた「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」を支援する会の第2回総会での講演を、論文スタイルにしました》

 四国、西国巡拝者の実態を把握するためにアンケート調査を行った。その結果、私が1991年以降、20数回にわたって実際巡拝するなかで、肌で感じていたことを、数字として裏付けることができた。四国遍路は大別して3つのタイプに分かれること、西国は四国に比べ観光的要素が強く、徒歩巡拝はほとんどいないということなどである。詳細は拙著『公認先達が綴った遍路と巡礼の実践学』(2007、高野山出版社)を参照されたい。


<1>調査方法

 調査は2004年9月から2005年9月にかけ、各2000枚のアンケート用紙を配布した。

 四国は、期間中88番大窪寺に調査用紙を置かせて頂き、適宜境内で直接配布した(その場での聞き取りも含む)。また、28番大日寺の納経所での配布もして頂いた。88番門前の民宿、88番に至る遍路道沿いのお遍路サロンにも置かせて頂いた。また一部、83番、84番、85番でも直接配布させていただいた。回収は504通で、回収率25.2%。

 西国は22番総持寺での直接配布が中心である。また、11番上醍醐寺にお願いして用紙を置かせて頂いた。一部、33番華厳寺で直接配布させていただいたほか、30番、32番でも配布した。回収は286通で回収率14.3%。

 また、これとは別に、四国霊場会公認先達を対象に、2004年6月、関西先達会総会の会場でアンケートを取らせていただいた。有効回答数は192通。


<2>四国遍路

 巡拝者がどこから来ているかを見ると、四国遍路の場合、全国的な広がりをみせている。地元四国からが22%と5分の1以上を占めているのは当然としても、近畿からが30%とこれを上回り、以下関東14%、中部11%、中国8%、九州5%などとなっている。明石海峡大橋の開通で、近畿から四国が日帰り圏になったことが近畿からの巡拝者の多さに現われていると言えよう。地元四国より多いのは人口規模の違いからといえると思う。つまり実数からいけば四国の人より近畿の人のほうが多いのが四国遍路の実態である。人口比に応じて見てみれば※1、四国54%、近畿15%、中国11%、中部5%、関東4%などとの修正値になり、地元四国の人が遍路に出る確率が多いのがわかる。

 交通手段については、28%が徒歩のみ。自転車1%、公共交通機関15%、車30%、団体バス(マイクロ含む)23%、タクシー1%、バイク他1%となっている。徒歩が意外と多そうに見えるが、これはアンケートへの回答率が、徒歩が高かったためだ。車や団体遍路の場合、先を急ぐことが多く、回答してもらえなかった場合が多かったのに対し、徒歩は寺で休憩を取ることが多く、比較的好意的に応じてもらえた。また、寺、民宿などに置かせてもらった分について、自主的に書いてくれたのも徒歩遍路が多かったと考えられる。ちなみに配布時のチェックでは、はっきりと徒歩とわかる人は1%程度だった。

 日程は、日帰り21%、区切り打ち51%、通し打ち28%。人数は単独が38%、家族などの小グループ40%、団体21%であった。徒歩の場合ほとんどが単独であるので、上記の理由で一人遍路が多めに出ているが、実際の配布時でのチェックでは、単独5%、小グループ46%、団体49%であった。団体での回答率の低さがここでも分かるが、あえて修正はしない。交通手段と日程の相関を見ると、徒歩の場合半数以上の58%が通し打ち、39%が区切りであるのに対し、車の場合、区切りが55%、日帰り29%、通し16%と通しの比率が減る。団体バスでは区切り60%、日帰り28%、通し12%とさらに通しが減る。

 地域と日程の相関では、地元四国は日帰りが51%と半数以上を占め、通しは14%に過ぎない。日帰りは中国の31%、近畿でも18%がそうであるが、その他の地域ではほとんどない。往復の交通の関係からやむをえないだろう。一方、通しは中部の44%、関東の34%、東北の57%、九州では58%を占め、遠距離ほど比率が高くなる傾向にある。交通手段は、四国では車50%、団体バス26%、徒歩13%、公共交通機関7%であるが、近畿は団体バス32%、徒歩31%、車23%、公共交通12%となり、関東からは徒歩38%、公共交通30%、団体バス16%、車12%となる。中国は四国と、中部は近畿と、東北、北海道、九州は関東とほぼ似たような傾向になっており、距離と回り方の相関がうかがえる。

 これらを総合すると、地元四国の人たちは車の日帰りで、家族、知人など小グループで巡拝する。近畿、中部など中距離地区からは団体バス(あるいは車)の区切り打ち。関東以遠の遠距離地区からは徒歩(か公共交通機関利用)の単独行動で通し打ちというスタイルが多いことが浮かび上がってくる。

 宿泊施設は、ホテル・旅館等が55%、宿坊・遍路宿37%、野宿等が8%となっている。野宿は徒歩遍路の12%がしている。また、車でも7%あったが、車の中で寝るのも含まれるであろう。さすがに団体ではなかったが当然であろう。

 結願に要する日数については、6−70日と開きがあったが、交通手段で大きく異なる。また、遠距離からの区切りの場合、往復に要する時間も勘案しなければいけない。交通手段別にピークを見ていくと、徒歩の場合40−50日、公共交通機関利用で24−40日、車で8−12日、団体バスで10−16日、自転車18−20日となっている。

 何周目かについては、初めての人が59%と6割近くを占めている。2回13%、3回9%、4回4%と減っていき、緑札に相当する5−6回は6%、赤札(7−24回)7%、銀札(25−49回)0.6%、金札(50−99回)0.8%、錦札(100回以上)0.8%となった。最高は195回だった。銀札以上は絶対数が少ないので統計的には注意を要するであろう。

 動機については複数回答可で答えてもらった。その結果、先祖・家族・知人等の供養が57%と過半数の人が挙げている。近しい人の死が遍路にかきたてるという構図が浮かび上がる。もちろん、他の理由が優先したとしても、複数回答でいくつかの要因の一つとして供養が重要であるということであろう。2番目が自分を見つめなおす旅で35%、3位が心の癒しで29%、以下、信仰のため14%、病気(身体障害)の平癒13%、健康ウオーキング13%、他の願掛け11%、観光9%、修行8%、知人に誘われてなんとなく4%、その他11%となっている。交通手段別では、徒歩では半数近くの49%が自分探し、23%が健康のため、14%が修行と他の手段とは際立つ特徴を見せている。一方、車では21%が信仰、14%が観光となっているのが目立つ。
 服装は、白衣が73%、普段着が27%。お寺でのお参りの仕方については、フルコースの勤行が32%、般若心経・宝号のみの簡略版が52%、お経を唱えずお参りだけが15%であった。納経の仕方(複数回答可)については、納経帳が87%、軸が38%、白衣が29%。交通手段との相関では、徒歩の84%、団体バスの83%が白衣を着用しているのに対し、車では63%、公共交通は58%となる。白衣で電車、路線バス等の公共交通機関に乗るのは恥ずかしいということも考えられる。勤行は団体バスの98%とほとんどが、徒歩でも87%が行っているのに対し、車では77%、自転車は67%に下がる。お参りに関しては団体が一番ちゃんと行っているということになる。3点セットで納経する人は17%いた。車で初めての人が多いのが特徴で、重ねるに従って納経帳のみとなっていく。また、全く納経をしない人が6%ほどあった。徒歩遍路に散見され、歩くことが目的で納経は必要ないということなのであろう。

 お礼参りについては、高野山に84%、1番霊山寺に35%が参っているほか、京都・東寺に1%、打ち始めた寺(と思われる記述も含む)に1%程度、88番大窪寺に0.8%(おそらく逆打ち)、長野・善光寺に0.6%という数字が出ている。四国遍路を終えた人の8割強という圧倒的多数が高野山に参っている一方、1番に戻る人は3分の1ということがわかった。それ以外にお礼参りする人はわずかで、まれに自宗の本山(根来寺、妙心寺)を挙げる人もいた。

 遍路のプロフィールを見てみると、年齢は60歳代が40%と最も多く、以下50歳代20%、70歳代17%と続き、40歳代8%、30歳代6%、20歳代6%、80歳以上3%となっている。職業は無職(主婦を含む)が54%と過半数を占め、会社員、自営・自由業が共に11%、公務員、農林水産業が各4%、会社・団体役員3%、学生2%など。僧侶・運転手・添乗員等いわゆる遍路のプロも2%弱いた。性別は男60%、女39%、不明1%。宗派別では、真言宗が27%で最も多いのは当然としても、浄土真宗が22%もいた。無宗教の人が18%で3位。以下、禅宗系13%、浄土宗5%、日蓮宗3%、天台宗2%など。

 60歳代の無職というと、定年退職後にお遍路に出るという図式が浮かび上がってくる。50歳代の人も、リストラ後に自分を見つめる旅をしているという人が多くみられた。また、夫婦(と見られる場合も含む)で回っていることも多く、配布時のチェックでは全体の2割程度がそうであった。定年後の夫婦で車遍路というほほえましい情景が浮かび上がる。家族以外の小グループは女性同士というのが多く、男性は単独行動が目立った。団体は概して男女半々か、女性の方が多いケースが目立った。30−40歳代の働き盛りは遍路に出たくても仕事が忙しくて出られないということであろうか。出ても車での日帰りか、1泊2日がせいぜいであろうことが、アンケート結果からもうかがえる。20歳代は学生の長期休暇を利用した徒歩遍路に限定される。70歳以上は、車か団体バス、タクシーの遍路で、複数回の重ね印が目立つ。

 他霊場との関係では、四国遍路の34%が他の霊場の巡拝経験があると答えている。うち半数程度が西国であり、多くは近畿在住者である。四国に関して言えば、別格二十霊場、四国三十六不動等との併用も多く、関東在住者では坂東、秩父という回答も目立った。


<3>西国巡礼

 西国三十三所巡拝の場合、巡拝者の住所別では地元近畿が66%と、3分の2を占め、中部が20%であるほかは、中国5%、関東3%、四国2%と1割を割っており、四国と比して地元志向が強いのが特徴である。33番札所が岐阜県で中部地方に在ることを考えれば、なんと86%が地元で占められていることになる。全国区の四国、地方区の西国という差が現れている。 交通手段では、車が46%と半数近くを占め、公共交通機関利用26%、団体バス25%となっている。四国に比して、電車等の公共交通が便利なため、これを利用しての巡拝も多い。一方徒歩のみは0.3%(実数1件)しかない。
 日程では日帰りが75%と4分の3を占め、区切りが22%、通しは3%でしかない。このことから、西国巡礼は地元近畿の人が車の日帰りで回っているという構図がわかる。人数は単独が22%、小グループが55%、団体23%。また、配布時のチェックでは、小グループの内3分の2は夫婦(と思われるのも含む)連れで、四国遍路以上に夫婦の比率が高いことがうかがわれる。宿泊は91%がホテル・旅館等である。宿坊のある寺が少ないのに加え、安価で泊まれる遍路宿が交通の発達で廃れてしまっているのも影響している。

 結願に要した日数は車で5−33日。徒歩で36日。12−20日のあたりが多い。車で日帰りを繰り返すと1日1−3か寺ぐらい回ってというパターンが多いのだと思われる。四国では札所間の距離が短い所では1日十数か寺回れるが、西国は札所間距離が長いため、こういう結果になる。何周目かについては、初めてが67%と3分の2を占めている。2回15%、3回7%、4回2%、5−7回5%、8回以上4%で、最高は23回であった。四国に比べ回数を重ねる人が少ないのがはっきりと表れている。

 動機については、先祖・家族・知人の供養が52%と過半数の人が挙げているのは四国と同じ傾向である。心の癒し37%、自分探しの旅31%というのも同様。以下、健康のため24%、観光20%、信仰20%、病気平癒16%、他の願掛け12%、修行9%、誘われてなんとなく5%、その他6%であった。観光目的が2割と四国の2倍以上の比率となっているのが特徴だ。徒歩巡礼がほとんどいないのに「健康のため」とする人が四国より多いのは、公共交通機関を使いながら、駅やバス停から寺まで歩くというパターンだと思われる。山の上へ何百段もの石段や山道を登らなければならない寺が1番をはじめ17か寺と結構多いからだろう。

 服装については、白衣15%、普段着85%と四国とは完全に逆転している。寺での勤行も全くしないのが46%とほぼ半数を占め、簡略版が44%、フル勤行は10%にすぎない。納経は帳面が87%、軸が38%、白衣が29%。納経なしは3%だったが、西国は観光寺が多く、服装からは観光客やハイカーと巡拝者の区別がつかないので、納経所で調査を行ったため、納経しない巡拝者が実際どれほどかは不明だ。

 巡拝者の年齢は、60歳代が41%、50歳代30%、70歳代13%、40歳代8%、30歳代3%、80歳以上2%、20歳代1%であった。性別は男58%、女41%、不明1%。職業は無職47%、会社員17%、自営・自由業10%など。宗派別では、浄土真宗24%、真言宗20%、禅宗系16%、浄土宗12%、日蓮宗5%、天台宗2%、無宗教13%など。

 西国巡拝者も四国と同じく、定年退職後に夫婦でというパターンが多いようである。が、その回り方は普段着で観光を兼ねて車で日帰り、寺ではお経も唱えず、そそくさと納経所へ走り朱印を集めるということであろうか。


<4>四国先達

 四国霊場会公認先達は最低4周以上回って、札所寺院の推薦を受け、講習会を終えた、いわば遍路のプロである。その人たちがどういった回り方をしているのかを調査した。関西先達会総会ということで、調査対象者の住所はすべて近畿地方であるという前提で受け止めていただきたい。

 交通手段は、団体バスが75%と4分の3を占める。自家用車が18%、タクシー5%、公共交通機関1%、徒歩1%であった。従って人数も20−49人が51%、50人以上11%、6=9人16%、2−5人14%、10−19人6%、単独3%と、20人以上の団体で行動するのが6割以上を占める。団体の種類は、講が39%、観光バスの引率が30%、その他のグループが23%など。
 日程は、区切り打ちが80%で、通し打ち11%、日帰り9%。区切りの方法は4回に分けてが35%で、3回32%、6回12%、2回9%など。最高15回分割。3泊4日が28%、2泊3日が27%、1泊2日と4泊5日が19%など。宿泊はホテル・旅館等が63%、宿坊・遍路宿が36%、野宿1%。1周の所要日数の平均は12日で、最短5日、最長45日。車(バスを含む)の場合12日が最も多く25%、次いで10日15%、7日12%、9日11%など。40日以上は2件で徒歩の場合だ。
 動機は先祖・家族・知人の供養が60%、信仰29%、自分探し17%、修行15%、誘われてなんとなく15%、心の癒し14%、病気平癒14%、他の願掛け4%、観光1%、その他5%。現在は何を求めているかの問いには、信仰38%、修行38%、後進の先達8%、職業として1%など。経歴年数は2−45年で、平均18年。最多は10年で15%。これまでの結願回数は平均14回、最高80回。最多は資格最低限の4回の10%。徒歩巡拝に関しては、経験がないのが91%を占め、1回6%、2回以上は3%。最高は10回。

 年齢は70歳代30%、60歳代29%、50歳代12%、80歳代8%、40歳代3%と一般の遍路より一世代上の年齢構成となっており29歳以下はいない(資格は20歳から可能)。職業も無職が57%、不明18%で、有職者は25%に過ぎない。会社員10%、自営・自由業6%、公務員3%、会社・団体役員3%など。さすがに学生はなかった。年齢的にそれだけの回数を回るのが難しいのと、資格審査の際にはねられるであろうとのことであった。性別は女56%、男29%、不明15%と、女性のほうが圧倒的に多い。

 資格は先達47%、権中先達17%、中先達15%、権大先達6%、大先達6%など。権中先達は先達資格取得後2年・2回以上回って可能。中先達はさらに同基準、権大先達、大先達は、さらに3年・3回以上必要になる。従って大先達になるには最短でも11年、14回以上の巡拝が必要となる。宗派は真言宗28%、浄土真宗21%、浄土宗10%、禅宗系6%、天台宗3%、日蓮宗2%、無宗教7%など。

 講や旅行会社主催のツアーで20人以上の団体をバスで引率、2−3泊の3−4分割の区切り打ちで所要10−12日、年1周回るというのが平均的な姿といえる。

 先達の場合、一般の遍路と比較して、動機に信仰、修行といった要素が多いのが目立ち、現在もそれを維持して回っているというのが、何度も重ねて回る人の特徴であろうか。「職業として」という回答が意外に少なかったが、かつては運転手や添乗員といった職業遍路が先達の資格審査で認められなかった場合が多かった名残かもしれない。

 徒歩巡拝経験者がほとんどないのは、予想通りであった。基本的に徒歩と、団体バスと、同じ遍路といいながら、似て非なるものであるというのが、アンケートからも裏付けられた。札所のお寺という点を回って朱印集めをする車遍路。その途中の遍路道という線をたどっていろんな体験をする徒歩遍路。後者は前者を低く見がちであるが、たとえ車にしても何十回、場合によっては百回以上回っているという継続性に、なかなかできることではない信仰の力を見るのである。

<5>まとめ

 四国、西国の巡礼者の実態について、実際に札所でアンケート調査を行った結果を分析した。これまで、先達として何度も回りながら感じていた、先行研究で欠けていた、圧倒的多数を占める車での日帰り遍路の実態を把握できたのが大きな収穫であった。徒歩遍路は本来の姿ではあるであろうが、それは遍路のごく一部にすぎず、圧倒的多数は車によるものであること。それも自家用車での夫婦あるいは家族での巡拝と、団体バスに二分されること。そしてそれぞれ回り方に関しては大きく異なることなどが、実感として感じていたものが、裏付けすることができた。また先達会の調査によって、巡拝回数を重ねるに従い信仰の比重が高くなることもわかった。また、現在において多数回の巡拝をするには車によるしかなく、徒歩は極めて少数派であることも浮き彫りにできた。多忙な現在において、ほとんどの巡拝者は、日帰りあるいは休日を利用しての1泊2日であり、中長期の泊りがけは定年退職者か自営業にあっては隠居後にしかできないこと。あるいはリストラ等で若年齢化があるものの数としては少ないことなども、アンケートの数字を分析すれば、実際先達をしているときの実感とほぼ同調する。

 四国、西国共に、60歳代の定年退職あるいは自営業にあっては隠居してから、夫婦であるいは単独で、車で区切りで回るというのが一番多数派である。そしてほとんどが、50−70歳代の中高年世代であり、30−40歳代の働き盛りはごく少数であることも分かった。20歳代は四国では一部徒歩遍路者に見かけられるが、徒歩のない西国ではほとんどいないことも分かった。巡拝者は四国は全国から集まるが、西国は地元近畿からがほとんどであることも浮き彫りにされた。そして全国区である四国でも実数では近畿からが一番多く、近畿の人が巡礼に熱心であることも分かった。

 四国遍路については大きく分けて3種類の回り方がある。同じ遍路といいながら、似て非なるものといっていいほどである。一つ目は徒歩によるもので、一人で通しで、あるいは区切りで歩くというものである。これは全国区である。二つ目は車で日帰りで回るというもので、家族それも夫婦二人が多い。地元四国の人が多いが橋の開通で交通事情が良くなったので近畿、中国からも増えてきた。三つ目は団体バスで、近畿、中国、中部からの中距離圏からが多い。寺では白衣を着て、きちんと勤行を行う。3−4回の区切りで1年で結願するケースが多いことも分かった。つまり回り始めてからの年数と巡拝回数が合致するのである。また、白衣に寺での勤行が普遍化されているので、一般の人も知らず知らずのうちに従ってしまう。というのが、実情であろう。実際、最初は普段着で巡拝を始めた人が、十数か寺回るうちに、白衣、笠、杖といった遍路グッズを買い求める例を見るのは枚挙に暇がない。

 先行研究を総合して考察を加えると、四国遍路については、江戸時代の真念のごとく、関西からの巡拝者が多く、地元四国をあわせ、全国から巡拝者を集めているのは昔からの変わらぬ姿であること。そして常に徒歩遍路が1%以上有ったことである。モータリゼーションによって自家用車遍路が増えているのは前記のとおりであるが、団体バス遍路も数多く出されているのが現状である。実際、私自身の調査で2006年にはある関西の一旅行社だけで月間95台のバスを出したということを確認しているから、1台40人と換算してもこの社だけで月間3800人を送り出しているという実態が浮かび上がるのである。四国に定期的に巡拝バスを出している旅行社は十数社ある。例に挙げた社は極端な例にしても、実際先達をしていて、札所で多くの旅行社のバスがかち合う光景を見るのは日常茶飯事である。飛躍的に巡拝者が増えているのは間違いない。が、旅行社間のダンピング競争も激しく、大阪―徳島の路線バス片道運賃(3600円)より安く設定(弁当付往復3000円)している場合もあり、参拝を目的としない人が路線バス代わりに使うケースも出てきていると聞く。こうなれば巡拝者の数を把握するのは困難といわねばならないだろう。

 西国は圧倒的に地元近畿からの日帰り車の夫婦を中心とする家族など小グループというのが多い。四国で言えば3種類のうち、地元中心の車遍路の類型である。が、西国はほとんどが白衣を着ず普段着で、ちゃんとした勤行を行わず、軽く参拝して朱印だけ頂くという回り方である。総本山クラスの大きな寺が多く、一般の観光客のほうが主となっているため、観光半分での巡礼といえよう。実際、見かけ上観光客との区別はつかない。納経はするものの、巡礼者の意識的には観光客と差別化できるかどうかは疑わしい。私が巡礼していて、白衣で勤行を行っていると、奇異の目で見られたり、写真の被写体となったりすることも少なくなかった。徒歩は西国では廃れてしまっていると言って過言ではない。残念ながら数値分析の対象外になるのはやむをえない。
 四国と西国の対比で見ると、四国は全国から巡拝者を集めているのに対し、西国は地元近畿からが圧倒的であること。西国の方が観光的要素が強いこと、霊場での服装や勤行方法から四国の方が真摯に巡拝している人が多いことなども、これまで巡拝しながら感じていたことを数字で裏付けることができた。



 

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