四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト主宰・建築家、歌一洋「プロジェクトにかける思い」

 《「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」を支援する会第14回総会兼記念講演会=大阪市立阿倍野市民学習センターで2021年3月20日=読みやすいように中見出しをつけ、写真も入れましたました。》




◇2つの小屋を紹介
 みなさん、こんにちは。今日はコロナ禍の中、おこしいただき、誠にありがとうございます。私の時間は20分くらいしかありませんので、みなさんにはレジメみたいなものをお配りしました。そこに概要や造り方を簡単に書いていますので、それをお読みいただくとありがたいと思います。

 ここでは2軒の小屋を紹介させていただきながら、私の思いをみなさんに少しでも分かっていただければと考えています。1つは去年(2020年)にできた小屋(ヘンロ小屋57号・土成=どなり)、もう1つは10年前に東北の大震災があり、その時に祈りを込めて造らせてもらった小屋(ヘンロ小屋47号・大根=おおね)です。その後で、このプロジェクトが賞をいただいた時の講評を紹介したいと思います。

↑歌一洋さんの講演


◇部材は人に見立て、1つか崩れると全体が崩れる

 プロジェクトの小屋は2001年に第1号ができて、ちょうど20年です。東北の大震災の時にできた小屋は、徳島の大根(阿南市)という所に造ったんです。ここは大根の産地でもあります。地域の特色を生かしたデザインを心掛けていますので、そんな意味合いも込めました。震災の犠牲者の事も考え、1つの塔にしました。

 材料は地元の杉の10センチ角を400本足らず組み合わせているだけです。構造は簡単です。部材は人に見立てているわけで、1つでも崩れると、全体のバランスが崩れて変になる、というイメージです。それは人々の協力の大切さを表現したつもりでございます。

 中の真ん中に柱がありますが、五重塔と同じように、地面にくっついているのではなく、浮いています。浮いていることによって、地震の時にバランスを保って崩れないのです。地元の杉を切って、吊ってあるんです。
 周りは光とは風が入ってくる構造で、お遍路さんの気持ちを少しでも癒してもらえるかなあと思って、そういう構造にしました。上にはちょっと刺激的な部分もありまして、これはお遍路さんに元気をもたらすんではないかなあと思っています。

↑ヘンロ小屋47号・大根


◇たくさんの方々の寄付と会費で建設

 去年できました小屋(ヘンロ小屋・土成)は、三木武夫元首相が生まれた家があった所です。この土地を(ご遺族が)阿波市に寄付されたんです。札所の寺への通り道にあるため、阿波市は「おもてなし公園」という名前で整備しました。

 その時に「小屋を造りませんか」というお話がありまして、公園のメーンの所に造らしてもらいました。近くには三木武夫さんの銅像がありますが、この公園には碑だけがあります。小屋は阿波市に寄付させてもらいました。

 費用は400万円くらいかかりました。100万円の寄付がありまして、後は地元の方々など100人くらいの寄付と、支援する会に寄せられた会費をあてて完成したわけです。

 小屋のデザインですが、2棟ありまして、これはお遍路さんに関係します。「同行二人」のイメージです。円形になっているのは、たらいにうどんを入れて食べるたらいうどんのイメージです。後に柱が立っていますが、地元にある土中(どちゅう)という土の柱のつもりです。杉の木を立てているのですが、土柱のイメージです。柱は1棟に8本あり、2棟でい8プラス8、つまり88ということになっています。

 小屋の中には、寄付者の名簿が表示されています。個人、会社、団体などいろいろな方々の名前です。これはほとんどの小屋で、同じような造り方です。100円でも1000円でも出していただくことは、ヘンロ小屋を造る意義のあるところです

↑ヘンロ小屋57号・土成


◇いろいろな人と一緒にやっていることに意味がある

 このプロジェクト、あるいは小屋のデザインに対し、いろんな賞を十数件いただきました(グッドデザイン賞、日本建築美術工芸協会のAACA特別賞など)。この活動に反響があるのかなと思っています。小屋を造るのには1万人以上がかかわっていただきましたが、その方々に対する賞だと思っています。賞の1部の講評部分を少し紹介します。

 「現代版茶堂といえる」(講評の一部を読む)。四国には茶堂というお遍路などをもてなす東屋があったんです。今もあります。その小屋によって、地元の方々はお接待をするわけです。これは公的でも私的でもなくて、何となくあって、何となく使われているもので、現代版茶堂とはうまく表現されていると思います。

 「歴史的に見て、1200年以上続く宗教的習慣に、また暮らしや風土にどう向き合うか、建築という形で示したものである。国内でも例を見ない精力的取り組み」(講評の一部を読む)。まあ、見ないでしょうね。長いことやっているので価値があるかなと思います。そしていろいろな方々と一緒のやっていることは、意味があると思っています。

 「20年の歳月をかけて1つ1つ、地域の方々に呼びかけてつむぎ出されるように造られた。行く先々でお遍路さんをサポートする小屋を、すべてボランティアによって造り出す行為そのものが、現代参加型アート。ひたすら脱帽させられる」(講評の一部を読む)。

 「何よりも2001年から造ってきたことに圧倒される。しかも、場所の特殊性を生かし、地元産の部材によって、今では56カ所の小屋(受賞時点)→ここが大事なところですが→これまでどれだけの多くの人が利用し、何を考え。そしてどのような交流が生まれたのだろう。支え合う精神、無償の愛が結実した素晴らしい取り組みに、心から拍手を贈りたい」

 大勢の方々が心を1つにして、一緒に無償の行為として造っていただいたというのは、社会的に価値あることだと私は思っています。小屋はただでできた小屋もありますし、800万円くらいかかったものもありますし、いろいろあります。地域地域によって、形も費用も作り方も、いろいろです。それもみんな地元の方々らが心を1つにして造ってくださったので、意義のあることだと思います。


◇お接待は四国の宝、日本中に広がることを願う

 小屋を造る際に現場で、私や支援する会の役員だけで造ったものもあります。現場で釘1本1本を打っていきます。釘1本から小屋ができていって、四国中に89棟できて、それを使っていただき、支え合うなどの気持ちが四国から日本、いろんな所に広がっていくのを、強く願っています。

 遍路やお接待は世界でも例を見ないシステムで、四国の宝だと思っています。その宝が日本に広がっていけばいいなあとイメージして、私たちはずっと造らせてもらっています。そうすれば社会が少しでも柔らかく、優しくなるんじゃないかと思っています。



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